青春という燃料をブラスバンドに詰め込んで天まで届け夢のロケット、今音楽の真っ只中アニメ、勝負の関西大会です。
前日の緊張感、バックヤードの特殊な雰囲気、そして圧巻の自由曲フル演奏。
これまでやってきたことを丁寧に、しかし言葉少なく振り返りつつ、北宇治の『今』にどっしりとカメラを向ける回となりました。
『今』を率直に切り取るだけでハラハラとワクワクがとんでもなく湧き上がり、ほぼフル作画での演奏シーンという、京アニ以外にはおそらく出来ない超正攻法で『今』を描き切る。
まさに青春アニメの横綱相撲、横道に一切それない真っ向勝負を成立させる豪腕を感じました。

前回『波乱を用意してくるかも』と予測してきましたが、クライマックスはただただ北宇治の『今』を実直に追いかけ、新しい要素を入れずに勝負を仕掛けてきました。
余計な波風を呼び込むよりも、一期も含めて積み上げてきた演奏を中心に据えて、そこに至るまでの緊張感と決意を切り取っていくシンプルな作りが一番『勝てる』と判断したのでしょう。
そして、それは文句のつけようのないほどに正解でした。
七分間の演奏は実際に出されてみるとまさに圧巻ですが、セリフを挟まない演奏の圧力だけで物語の最高潮を持たせるのは、作画の瞬発力と演出の切れ味、これまで積み上げてきたドラマへの眼差し、全てが必要です。
演奏の外側にあり、演奏を支える土台になる感情の揺れを自分たちは的確に映像に出来ているという確信があればこそ、台詞のない『饒舌な沈黙』に表現を預け、演奏表現一本でクライマックスを作り上げることも可能になったのだと思います。

台詞がない以上、演奏シーンの目配せやカット割り、カメラの移り変わりなどに意味を込め、暗号を視聴者に投げかけ読み取らせる形で、ドラマを隆起させることになります。
映画版と共通する作画も散見されましたが、むしろだからこそ、府大会から関西大会にかけて北宇治の何が変わったのか、視聴者自身が気付けるような豊かな作り込みがなされていました。
第3回で優子とのわだかまりを消した結果、麗奈のソロを目を伏して聞いている中世古先輩はいない。
観客席で意味ありげにステージを見つめている希美は開幕の帳を開け、みぞれは饒舌に感情の乗ったソロを吹ききる。
謎めいたあすかとの距離が縮まったからこそ、もうあすかは久美子の方に目線をやらない。
それは二期になってから、久美子が巻き込まれる形で僕らの前に提示された感情のうねり、その果てなわけです。

運指や音のノリ、撮影の細やかな変化の中に僕らは様々なメッセージを読み取るけれど、それは身勝手な妄想ではけしてなく、これまで製作者が積み上げてきた物語、僕らが見てきた青春のドラマが沈黙のうちに想起される、豊かな暗号です。
彼女たちの努力、こじれにこじれた愛情の絡まりを目撃してきたからこそ、言葉のない演奏の中に意味が生まれ、双方向に文脈を読み取る快楽が強制的に励起してしまう。
そういうあまりにも豊かな表現の暴力を、一つの節目であるこのタイミングでしっかり行使してきたことは、このアニメの強さの証明だと思います。

饒舌な無言であることは、まるで僕達がホールに(もしくはバックヤードに)相席しているかのような、強い臨場感を掻き立てる足場にもなっています。
言葉を超越した想いを形に出来るからこそ、吹奏楽はこの作品のテーマであり、キャラクターたちが青春を捧げるに足りる、立派な表現たりえている。
そしてそれが表現として様々な人に届く様子も、小気味よく挿入される客席や舞台裏の居住まいから見て取ることが出来ます。
己の全霊をかけて生み出した音楽が、隣りにいる仲間と響き合い、偉大なる指揮者/指導者に導かれて世界に広がり、様々な人に届く。
そういう音楽の精髄を感じ取らせる意味でも、七分間の演奏は驚異的に分厚く、堅牢な勝負の表現だったと思います。

映像としてみても、演奏者を中心に指揮者、見守るチームモナカ&希美、観客席を様々な画角と距離で飛び回るテンポの良さに、原始的な快楽がみっしりと詰まっていました。
滝先生の指揮棒が的確に演奏の主役を引っ張り上げる音と映像のシンクロとか、ソロが収まってクライマックスに入る瞬間の疾走感、クライマックスを駆け抜ける時の各々の表情の切り取り方。
とにかく気持ちが良く、気分が高揚する映像でした。
感情と青春のドラマを支えにするだけではなく、こういう細胞レベルの気持ちよさを疎かにしないことが、あの七分間こそ神様に祝福された時間だと感じさせる魔法なのでしょう。


非言語的な言語が極点に控えつつも、言葉で状況を積み上げて、物語を締めくくることも忘れないのは、劇アニメーションでもあるこの作品にとって、とても大事なことです。
南中カルテットを中心とした原作二巻の範囲が収まる今回、『これまでの四話は一体何だったのか』というアンサーを言葉でしっかり出すのは大事だし、これからまだまだ続く物語に何が控えているのか予感させるためにも、適切な台詞を引き出す必要があります。
全国大会への強い想いを各キャラクターが言葉にしたり、実質部長として部の中心にいるあすかが心を言葉にしたり、みぞれと希美、久美子と麗奈の特別な関係を再確認したり、言葉のやり取りも非常に元気な回でした。

様々に良い掛け合いがある回なんですが、ステージには立てない葉月が未来への希望を久美子と麗奈に託し、それを受け取った二人がいつもの『聖域』とは少し違う距離で決意を新たにするシーンは、個人的に凄く刺さりました。
演奏シーンでバックヤードを細かくカットインさせたのは、勿論『誰かのために吹く』ソロが届く先を描く意味もあるし、スパイスを織り交ぜて映像に変化を出す意味合いもあるんでしょうが、『特別ではない』チームモナカの影の助力と祈りを、しっかり切り取るためだったと思います。
一足早く、帰りの電車の中で葉月に『特別』な思いを背負わされた久美子たちが、隣り合うでも向かい合うでもないねじれの位置で各々決意を新たにするのは、勝負を前にした緊張感と覚悟が伝わってきて、非常に良かった。

そういう清潔で切り離された距離感だけではなく、舞台裏でしっとりと関係を確かめ合うみぞれ&希美、麗奈&久美子の姿を切り取ってくるのも、隙がないなと思いました。
中世古先輩の遺言みたいな言葉を否定し、天に向かって指を伸ばす優子に同調しつつも、彼女たちには圧倒的な引力で惹かれ合う『特別』がいて、その人を思って吹く音色には『特別』な色がつく。
仲間とともに闘うことと、『特別』なあなた一人のために吹くことは排他ではなく、お互いを伸ばし合う共存の位置にあるわけです。
みぞれと親しい距離にいた希美の視界が、みぞれが希美を見ているほどに狭く深く重たいものかどうかは、未だ答えが出ないままではありますが。
でも、みぞれが希美を思って描いた音はバックヤードを貫き、ちゃんと届いていたわけで、二人の物語は結構幸せな形で落ち着いたんだと思います。

演奏の言語が濃厚に七分間を埋めた後、みぞれに久美子が投げかける『コンクールは嫌いですか?』という言葉。
二期一話から四話はこの言葉を軸に、青春探偵・黄前久美子が先輩の過去や気持ちに切り込んでいくお話であり、『たった今、好きになりました』という笑顔のアンサーを受け取って話が収まるのは、ここまでの物語をしっかり収める良いエンドマークでした。
この問いがあることで、個人の中にある感情だけでなく、部員全体が共有する『吹奏楽部』へのスタンスを照らすことが可能になっていたと思うし、みぞれの心情を巡る格闘の物語がどこにたどり着いたのか、はっきりと確認することも出来る。
みぞれの心の変化は、これまで吐き気を催す呪いだった"韃靼人の踊り"が穏やかなBGMとなり、希美だけを視界に入れて集中を高める姿からも感じ取れましたね。


滝顧問から部長に投げかけられた言葉を横取りし、部員全体をまとめ上げる宣言をしたあすかの勇姿も、なかなかに印象的です。
前回事態が解決した後、久美子に投げかけた言葉を適応するのならば、あの言葉も自分勝手なエゴイズムと計算の延長上にあるもので、本心ではないのかもしれない。
しかし演奏の最中あすかが見せている表情は必死で、剥き出しで、真実だけが持つ輝きにあふれているように感じられる。
計算にしろ本音の発露にしろ、北宇治部員を引き寄せる引力をあすかが発していることは間違いなく、今回起きた奇跡もまた、望んでか望まずか、彼女が他者に影響力を発揮した結果としてあるわけです。
捌けた仮面で距離を作りつつ、『他人のことはどうでも良い』『自分が吹ける環境を維持したいだけ』とうそぶく彼女の真実がどこにあるのか、少し靄が晴れたような謎が深まったような、不思議で熱い演説だったと思います。

南中カルテットの重たい引力を軸にユーフォ二期は進んできたわけですが、みぞれが笑顔をとりもどした今回で、それも一段落だと思います。
この後はまた別の曲が始まるわけですが、その前奏として田中あすかを巡るミステリは静かになり続けているし、主人公・久美子のモノローグなども活用し、かなり意図的に方向づけしている。
そういう青写真を見るだに、今回あすかが紡いだ言葉にどういう意図が込められてたのかは、今後鋭く暴かれていく大ネタなんだろうなと感じました。
まぁ俺あすかのこと好きだからね、ガッツリ尺回して掘り下げて欲しいって気持ちが山盛りあるのは否定しないけども。

後ちょっとしたことですが、橋本先生が別れの挨拶をする時田邉くんが涙を流しているシーン、男同士の気安さでしっかり指導されてた過去の爽やかさと響き合って、気持ちのいい絵でした。
モブ設定をきっちり作り込むのはハルヒ時代からの京アニスタイルですが、演奏中楽譜に貼られた合宿の思い出しかり、物語の主役ではないものたちにしっかり目配せして、欠片でも彼らの物語に光を当ててくれるスタンスは、作品の平等さを担保し風通しを保つ、大事なものだと感じます。
ここらへんはチームモナカや、コンクールの残酷さに食いつぶされたあずさちゃんの切り取り方にも共通する部分でしょうか。


というわけで、長きに渡った過去の因縁ともつれた感情の結末を、アニメーションの圧倒的豪腕でど真ん中に叩きつけてくる、勝負のエピソードでした。
まぁ勝ったね、文句なくね。
あの七分間にたどり着くためにこれまでのユーフォはあったし、あの七分間を足場にしてこれからのユーフォが語られていくと確信できる、分厚さと繊細な表情のあるクライマックスでした。

アウトロが終わればイントロが始まるのは、人生にまつわる物語の一つの真実。
今回最高に盛り上がり、納得と満足を生み出した北宇治吹奏楽部の挑戦は、全国の舞台にしっかり繋がっています。
その青春に一体何が待ち構えているのか。
次の曲が、僕はとても楽しみです。